㈱柳屋奉善 常務取締役の岡みどりです。
創業は1575年(天正3年/安土桃山時代)、今年で444年になります。
いちばんご愛好いただいている商品は、創業以来つくり続けており、歴代天皇陛下が神宮を訪れた際に献上している『老伴(おいのとも)』というお菓子です。
「老伴」は、白居易の詩から名づけられ、主に「長く連れ添った夫婦」を意味します。
最中の模様は、東漢時代に作られた瓦模様で、中国では一般的なデザインなのですが、
中央で羽を広げる「鴻の鳥」は幸せを運ぶ象徴とされております。
裏面の羊羹は赤く染められ、「日いづる国(日本)」を表しております。
ほかにも、明治天皇様のご成婚時に献上させていただいた『桐葉山(きりのはやま)』なども作っております。『鈴最中』は、松阪が生んだ名高い国学者で、鈴の愛好家でもあった本居宣長翁にちなんで作らせていただいたお菓子です。他にも和洋菓子を色々作っています。また喫茶「楊柳園」ではお菓子もお召し上がりいただけます。最近中庭に、茶室「楊柳庵」が誕生致しました。
私は40年前、東京でサラリーマンをしていた主人と知り合い結婚しました。長男が1歳になった頃、所沢から松阪へ引っ越しました。主人の実家(柳屋)は8人の大家族で親戚も多く、毎日賑やかで、4人家族の兼業農家で育った私にとってはとても新鮮でした。埼玉県は海がありませんが三重県は半分海に接していて、生牡蠣なども大好きになりました。また松阪はお祭りが多く、楽しい町だな、というのが第一印象でした。
歴史ある老舗のお菓子屋に嫁ぐことに関して、当時はそれほど深く考えていませんでした。
主人の家族も前向きに受け入れてくれ、気負うことなく、東京でウィンドーディスプレイをやっていたことが活かせたし、骨董品も好きでしたので、ワクワクした気持ちでした。
平成2年に義父(十六代目社長)が65歳で他界し、その5年後に先代の女将も亡くなりました。ちょうどバブルが弾けた頃でした。
それまではあくまで「お手伝い」という立場だったのが、突然自分に重責が回ってまいりました。先代の女将は大変パワフルで、自分でなんでもできた方でした。それを真似するのも難しいので、割り切って自分は自分なりにやろうと思っていました。無理をすると笑顔がなくなるので、自分なりの目標を持って、明るく、楽しんで、お店に出てみんなをまとめる。人と人の間に入って、良い関係をつくる。そんなことを心がけていました。
当時、お店には何十年も勤めているベテランさんが多く、少し萎縮しているところがあったと思います。でも、もう少し外部と関わって新しいことを取り入れるのが良いと感じていました。それで、職人さんと一緒に京都のお茶席菓子を学んだりもしました。
長男も外にも目を向けて頑張っているので、引き続きサポートしていければと思います。
「ミズネットワーク松阪」は中心商店街のおかみさんが街の活性化を目指し発足しました。20年間女性の感性を生かしたお祭りや桜の植樹などを行いました。初めてのことばかりで苦労もありましたが、継続することで全国の様々な方々とご縁を頂きとても感謝しています。会員は約40名ですが、本当に良い仲間が出来ました。色々な活動が各店にもプラスになればと思っています。
温故創新と言いますが、長い歴史を大事にし、伝統を受け継ぎつつ、一方では新しいものを受け入れて、その時代に合うものをつくり、皆さまに支持され愛されるお菓子作りを心がけていきたいと思っています。また、和菓子は季節感が大切です。ご当地の風土や文化・伝統などを守り、次世代に伝えていければと思います。
近江商人には、売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方よし」を大切にする伝統があります。常日頃から、地域にも貢献したいと思っています。また松阪商人には質素倹約・分相応の精神があります。慢心、傲慢では、長続きしない。続けてこられたことに感謝することが大事だと思います。
家庭の自分と、お店の自分と、社会の自分がつながって、その輪が広がっていく。そんなイメージを持っています。いくつになっても日々学び、日々成長ですね。まだ幼い孫にも、背中から何かを吸収してほしいですね。
この町は昔からたくさんの偉人を輩出してきました。参宮街道沿いに作られた城下町で、お伊勢参りで賑い、江戸時代からたくさんの往来がある所で、そうした地の利のおかげで、昔から外からたくさん情報が入ってきて、栄えることができたのだと思います。
今でも、そうした利点・特色を活かしてもっとうまく連携をとることができれば・・・情報発信ができれば・・・。本当に素晴らしいものがたくさん残っていると感じています。
住んでよし、訪れてよし、と自信を持って言える町なので、ぜひたくさんの方々に来て見て知っていただきたいですね。
最後にひとつ、告知をさせてください。昨年11月3日に新商品発売しました。
三重県産のはちみつ仕立ての老伴です。
松阪へいらっしゃった際には、ぜひ私どもの店にもお立ち寄りいただき、松阪の町とともに歩んできた老舗菓子の味を楽しんでいただければ幸いです。